映画「道~白磁の人」とある在日コリアンの想いから初心に帰る…

 

アンニョンハセヨ。野田です。

 

先日、一本の映画を見ました。

 

2012年に公開された日韓合作映画「道~白磁の人~」です。

主演は、吉沢悠さんとぺ・スビンさん。

韓流業界では、当時、ぺ・スビンさんの熱演でも話題になっていたのですが、

公開時には見ることができず、UNEXTで7年越しの鑑賞となりました。

 

植民地支配下の朝鮮に渡り

朝鮮の人々を愛し、理解しようと努め
そして朝鮮工芸の収集と研究にもいそしんだ
浅川巧の半生を描いたのがこの映画です。

 

この映画の企画者である在日2世、李春浩さんの講演を聞く機会があり、

前から気になっていた映画ということもあり、

事前に見ていくこととなりました。

 

李春浩さんは、ある日、この映画の原作になった

「白磁の人」(作者/江宮隆之 河出文庫)を読んで

浅川巧の人間愛に衝撃を受けたといいます。

 

映画化の夢を抱き、企画書を作成。

さまざまな映画関係者に想いを届け、

11年という歳月をかけ、不屈の精神で映画化を成し遂げるまでのエピソードは

日韓親善のために汗を流そう決意し
その夢の実現のために努力を重ねた
李春浩さんご自身のお話でもありました。

 

そしてまた、

監督と制作会社が決まるまでの紆余曲折
キャスティング裏話

といった映画制作のビハインドストーリーを聞けた点も非常に興味深く

あっという間の、そして濃厚な1時間半。

 

実は当初、山田洋次監督が映画化に興味を示し、2年半という月日をかけて

交渉・交流・打ち合わせを重ねていたそうです。

残念ながら、タイミングや諸事情により、山田監督の映画化は見送りとされたのですが、

李春浩さんがこの映画化への道のりを手記として出版した

「雲をつかんだおじさんー映画「道~白磁の人~」の歩みと在日コリアンの志」(信濃毎日新聞社)

には、この魑魅魍魎とした、魔物が住むといわれる、そして時に自殺者が出るとまでいわれる

映画製作業界のなかで、企画書片手に、熱く熱く映画化の賛同を呼びかけ

多くの人々の心を動かし、何度も白紙に戻りかけては、再起し、

やっとの想いで製作を成し遂げた

ひとりの在日コリアンの激動の歩みが刻銘に記されており、

わたしはしばらく深い余韻に浸ることになりました。

今でこそ幅広くご活躍されている李さんではありますが、当時の身分は

「田舎の韓国料理屋のおじさん」

だったからです。

 

映画の話になりますが、

1914年に朝鮮に渡った浅川巧は、当時では考えられないような行動で

朝鮮の人々を理解し、心の交流を重ねていきます。

それは、朝鮮人に日本語を話させる当時の同化政策ではなく

自らが朝鮮語を学び、白いパジチョゴリを着て、キムチを食べ、朝鮮の工芸品を愛すること。

生活様式すべてを朝鮮式に変えて、日本人である彼自身が朝鮮に歩み寄ること。

周りからは「日本語のうまい朝鮮人」と

間違われるほどだったといいます。

(すべて実話です。)

 

誰になんと言われようとも己の信念を曲げず

正しいと思うことにまい進する浅川巧の姿と、

映画の企画者である李春浩さんの姿が

重なって見えたのは、私だけではないでしょう…。

 

実はこの講演は、立教大学・李香鎮教授による

異文化コミュニケーション学部「朝鮮語圏の社会」という科目の授業の一環として行われたもので

立教大学の学生さんたちを対象にした講義でした。

 

そこで、さらに驚いたことがふたつありました。

 

ひとつめは

(李香鎮教授から聞いた話によると)
この科目の前期のテーマが、なんとズバリ!

「韓流」であったこと。

 

韓流が社会学のひとつとして、大学の授業で学びの対象となっていたのです…。

 

私は、大学時代に韓国に留学していますが、当時、まわりは、

「なぜ?なぜ?」と韓国に興味をもつ私が謎で仕方がないという様子でした。

それから20年の時が経ち、韓流という言葉と文化がしっかりと市民権を得て、

学問にもなっている。

 

素直に驚きました。

 

そしてもうひとつは

若干二十歳の学生たちが、真剣に現在の日韓関係について考え、そんななかで

 

「浅川巧があの時代にできたこと」

「今の時代の現状」

 

のギャップに、もどかしさを抱えているという点。

質疑応答でも映画の感想とともに、日韓の歩みよりに対する(とっても難しい)質問も飛び、

学生たちの意識の高さを目のあたりにしました。

 

ここに3つの姿が重なります。

 

■1910年代の朝鮮で自ら朝鮮人に歩み寄り、多くの人々に愛された浅川巧

■還暦をすぎて映画制作という夢を成し遂げた、在日コリアン李春浩さん

■昨今の日韓情勢を真剣に憂う20代の学生さんたち

 

それぞれが、日韓友好のために、

何ができるかを模索し、自分ができることで行動する。

 

その姿はとても刺激的で、なんだか

 喝を入れられた気分にもなるのでした…。

 

私がもっとも尊敬する韓国人アーティストである

東方神起のユンホは、いつも「初心を忘れずに」と

言います。

その心が、あのような高いプロ意識と

質の高いパフォーマンスを生み出しています。

 

私は、約20年、韓流雑誌業界にいましたが、

今は、それまでお世話になった媒体から離れ

韓国を愛する方々・韓流ファンの想い出や人生をまとめる「自分史・メモリアルブック」編集サービスを始めています。

まだ、誰もやっていない分野での挑戦で、不安ばかりの毎日でしたが

見本誌を見たり、話を聞いてくださる方々、

そしてこの事業に協力してくださっている業界の方々から、

「よく、このサービスを思いつきましたね」とお褒めの言葉をいただくことが増え

そのたびに、涙がでるくらいの喜びを感じています。

 

何もないところから、ゼロ、(いや、マイマス)からのスタートは、

本当に本当に大変です。

指針になるものが何もないから、そこから創りあげていかないといけないからです。

その形が、いま、ようやくできようとしていて、

メモリアルブックの制作に興味を持ってくださる韓流・韓国ファンの方々も現れました。

 

お客様の出会いを大事にしながら、

また、浅川巧さんのように、相手の気持ちに寄り添いながら

李春浩さんのように、めげずにくじけずに

あの日出会った学生さんたちのように、何なら自分でもできるのかと考え

ユンホさんのように初心を忘れず

 

じっくりと、この事業を育てていきたいと思っています。

 

 

追伸

「道~白磁の人~」は7年前に公開された作品ですが

ちょうど今、UNEXTなどで配信されているので

私自身も講義を前に、グッドタイミングで鑑賞することができました。

浅川巧の生き様、国を越えた男の友情を描いたヒューマンヒストリーである一方、

当時の勤務形態、生活様式、そして美しい陶磁器や、両国の葬式の違いなどが詳細に描かれ

民俗学という側面でも資料価値の高い1作となっています。

http://hakujinohito.com/

ぜひ、ご覧になってくださいませ^^